近ごろ人事の領域で「エンゲージメント」という言葉に注目が集まっています。
各社が、このエンゲージメント向上を目指し様々な取り組みを始めているのです。
では、なぜ、注目が集まっているのでしょうか?
■エンゲージメントの意味
エンゲージメントという言葉は、様々な場面で使用されています。一般的には「婚約」という意味で目にすることが多いのですが、ブランディングの観点では「ブランドに消費者が積極的に関与することで構築される、ブランドと消費者との間の絆」ですし、マーケティングの観点では「顧客の興味や注意を引きつけ、企業と顧客の結びつきを強めること」という意味で使用されています。
人事用語としてのエンゲージメントも「従業員の会社に対する愛着心や思い入れ」という意味で用いられることもありますが、より踏み込んだ考え方として「個人と組織が一体となり、双方の成長に貢献しあう関係」という意味を持ちます。
言い換えれば、「個人が成長することで組織が成長し、組織が成長することで個人の成長を高める」ことの相互作用を理解し、それぞれが主体的に実践しようとすることです。
■エンゲージメントの重要性
ではなぜエンゲージメントが注目されているのでしょうか。そこには日本企業の雇用形態が変化してきたことが関係しています。
昨今、日本型雇用の特徴であった「終身雇用」や「年功序列」から、成果主義型の報酬制度に移行する企業が増えています。その結果、短期的な業績を重視する動きが強まり、より良い待遇や環境を求める動きが活発となりました。
特に上昇志向が強く、キャリアアップやスキル向上を常に意識している優秀な人材は、自身のキャリアプランに合った環境を求めて転職するようになり、多くの企業が経営層候補となり得る優秀な人材の流出に直面することとなっています。さらに若手層では人口減少による労働力不足と相まって、離職率の上昇と人材不足が深刻化する傾向にあります。
そのような環境の中で、会社が売上を増やしビジネスを拡大していくためには、人材確保が不可欠ですし、人材確保を経営の最重要課題の一つとして挙げる企業も増えているのです。
このような背景から多くの企業が、従業員の成長を後押しと業績向上のための施策、つまり従業員(個人)と企業(組織)が同じ方向に向かって共に成長を志す関係の構築の必要性が認識され始めました。
■エンゲージメントと従業員満足度の違い
エンゲージメントと似た言葉として「従業員満足度(ES)」があるが、その違いについても触れておきたいと思います。
従業員満足度は、「職場環境」、「福利厚生」、「人間関係」、「マネジメント」などの面から、職場の居心地の良さを測る指標です。
従業員満足度を高めることでモチベーション向上は期待できますが、そのモチベーションは企業業績の向上に向かっているとは限らないため、従業員満足度が高いからといって、必ずしも企業が成長するわけではありません。
しかし、エンゲージメントは、従業員と企業が同じ方向性で共に成長する関係を表します。エンゲージメントと従業員満足度との大きな違いは、従業員が企業の業績向上に繋げるために主体性を発揮するかどうかの違いになります。
■エンゲージメントを高めるメリット
では、エンゲージメントを向上させることでどのようなメリットがあるのでしょうか?
もっとも大きいメリットは、離職率の低下です。
先に述べた通り、人材の流動化が進む中では優秀な従業員ほど離職の危険性が高い傾向があります。
エンゲージメントを高めることで優秀な社員と強い関係を構築できていれば、報酬・処遇のみで築かれた関係に比べて離職の可能性は低くなるはずです。
また、そのことにより欠員補充のための採用費を抑制することもできます。
特に優秀な従業員が離職した場合、その補充のためにはやはり優秀な人材を獲得する必要があり、採用費も割高になる可能性が高まります。その支出を抑えられることは非常に大きなポイントです。
また、エンゲージメントが高い状態になれば、従業員が他人に自社を勧めることでリファーラル採用に繋がることも期待できるなど、波及的な要素も考えられます。
■エンゲージメントを高める方法
エンゲージメントを高めるために担当者は何をすべきでしょうか。
施策実施のためのステップを紹介したいと思います。
ステップ1:エンゲージメントの測定、現状把握
主にはアンケート調査によって課題を把握します。
パルスサーベイは比較的手軽に実施できます。また「eNPS(Employee
Net Promoter Score)」という指標や、「エンゲージメント・サーベイ」「Q12」といったツールも存在しています。
ステップ2:コミュニケーションの実施
アンケート結果を踏まえて、従業員の仕事の志向性に沿った環境や機会の提供、従業員との価値観を共有、目指す将来像について対話などが可能な仕組みを考えていきます。
ステップ3:制度設計の見直し
コミュニケーションに基づいて共有した方向性を評価できる制度を構築します。
ステップ4:PDCAサイクルを回し自社に最適な仕組みとしての精度を高める。
■まとめ
これからますます人材不足の深刻化が懸念される中で、エンゲージメント構築は会社が生き残っていく上で重要な課題となります。
エンゲージメントを構築できない会社には、優秀な人材の流出によって企業活動に悪い循環が生まれてしまいます。その一方、エンゲージメントを構築できた企業には、優秀な人材の確保によって更にビジネスを成長させる良い循環が生まれていくのです。
このようにエンゲージメントが会社の将来を左右する可能性も大いにあり得ます。
そして、エンゲージメントの構築には全社的な施策の実施や仕組みが重要であり、特に人事担当者が担う役割は大きいものとなっています。
◆お問合せはこちらから